プロローグ

ビボーグの村に収穫の祭りの季節がやってきた。この日、村の若者は成人の儀式として守り神であるカーナの像をかつぎ、村じゅうを練り歩く。一生に一度の晴れ舞台として……神の御加護と娘たちの祝福を受けながら……しかし、そこにセロンの姿はなかった。村はずれに住む羊飼いのセロンだ。彼は沼に落ちた羊を助けていて、儀式に遅れてしまったのだ。セロンの落胆はいうまでもなかった。今年のこの儀式に出ないと、この村では一人前の男として、もう認められないのだ。

その夜。

祭りの夜にはいつも、もうひとつの儀式が行われた。大魔道士の中でも特に身分の高いハイ・ロードのひとりであるグレイロードが、天界からこの村へ降りて来るのだ。アナニア地方の方々からビボーグの村に集まった人々の頭上から、グレイロードが白い輝きとともに降りてきた。

人々の前に立ち、皆からの祝福の言葉にひとつひとつ答えてから、グレイロードは静かに、そして威厳に満ちた声で言った。

「勇者を探している。肉体と魔術の戦いの手助けをしてくれる者を探している」

この申し出は、もう何百年と続いていた。毎年、毎年グレイロード様は何故同じことをお尋ねになるのだろう。村の人々が首をすくめるように、じっとしている中、一人の若者が進み出た。セロンである。村人はもちろん、グレイロードさえ軽く驚きの表情を見せた。無理もないことだ。当の本人であるセロンでさえもが、当惑しているのだから……。しかし、昼の儀式に遅れたことで、一人前の男として認められるチャンスを逃したセロンは必死だった。一人前の男として認められるために、いや、何よりもセロン自身が、未知なる未来へのチャンスだと感じたからであろう。

その後、何がどうなったのか分からないままに、セロンはグレイロードとともに空高く舞い上がるクリスタルの球体の中にいた。眼下には雲の隙間から村の明りが見え、上空には月が輝いていた。

グレイロードは言った。

「これから話すことを良く聞くのだ」

「遠い昔、まだ私が若かりし頃、ヤー・ブロディンと呼ばれる古代の街があった。そこは学問の中心地で、魔術の修道士、すなわち啓蒙の士たちの暮らす場所だった。私たちハイ・ロードは、彼らと非常に親しくつき合い、双方の力で地球上の平和は保たれていた」

グレイロードは遠くを見るような目つきで話した。

「だが、そこに死の教団が現れた。死の教団とは、混乱と欲望と悪意から、まるで湧き出すように現れた烏合の衆なのだ。そして、あろうことか奴らはヤー・ブロディンを襲撃した。その目的は、啓蒙の士の修道院にある7つの至宝を手に入れることだった。全ての啓蒙の士は殺害され、至宝は全て略奪された。悪血の者たちの欲望は、取り返しのつかないことをしてのけたのだ」

グレイロードの目に涙が光った。

「おまえに、死の教団に奪われた7つの至宝を取り戻し、修道院を蘇らせてもらいたいのだ」

「何ですって?」

セロンは我が耳を疑って聞き返した。

「セロン、おまえはまだ自分の本当の能力に気付いていないが、おまえこそ私の後継者となり得る勇者なのだ。だが、おまえを一人で旅立たせるわけではない。私に仕える7人の魂の勇者の中から3人までを選ぶことができる」

「若き勇者、セロンよ。おまえこそ我々の期待だ。試練の旅に出よ。そして、自らの運命を切り開いてみよ」