2005.1.20
喜国雅彦『本棚探偵の冒険』を読んで
古書マニアの生態を記した本。古書マニアに関する本で有名なものとしてはまず唐沢俊一の『古本マニア雑学ノート』が挙げられようが、本書もそれに劣らず楽しい本である。本の紹介をする際に「私(喜国)が持っているものをいくつか紹介(に見せかけた自慢)」と素直に書いてあるのがよい。
中でも、函欠け本のみならず最初から函がついていない本のために、自分でオリジナルの函を製作するという章や、短編小説をコピーして製本し、豆本を作るという章がことさら俺の琴線に触れた。著者が試みて結局断念したという、所蔵の乱歩本をひたすら列挙する…というエッセイに代表されるような、書をインデックス化し、それによって浮かび上がってくる、著者の収集力・収集傾向等を楽しむ、というのも勿論いい事であるが、先に述べたような章は本を実体的な存在として愛でる、という姿勢が強く見られ、それが俺にとって微笑ましかった。
『古本マニア~』と共通して取り上げられている話題として「デパートの古書市」に関する話があった。このへんに関しては『古本マニア~』に載っている「前の年に故障したエレベータの前には誰も並ばない」「エレガが『10階(古書市会場)の他にご利用される階はございますか』と問う、『ないよ、ない!みんな10階!』という答えがどこからともなく返ってくる――ところが、乗っていた一人のおばちゃんが『わたし、6階』と言った、その刹那エレベータ内に重い溜め息が流れ、場の色が変わった」というエピソードのほうが俺好みではある。とはいえむろん本書がつまらないということではない。コギャルとデパート店員の間にかわされたという、
- コギャル
- 「なんの列ですかー?」
- 店員
- 「こ、古書ですけど」
- コ
- 「古書ってなんですかー?」
- 店
- 「……ほん……古本ですけど……」
- コ
- 「ああ、古本の古書かー。(引用者注:連れ合いにむかって)どうするー?並ぶー?
というやりとりが素敵すぎる。
巻末の座談会で彩古氏が述べた「もともとはSFから集め始めたんだけど、SFは本が少ないじゃない。それで買うものがなくなってしまって、仕方なくミステリを集め始めた」という言葉が俺の胸をざわつかせた。SFを集め終わったならばそれで完結してもよさそうなものだと俺のような素人は思うが、でも「仕方なく」集めてしまうものなのだな。本を「買う」でなくて「集める」という動詞が使われる点も凄みを感じさせる。
最後に、本書が単行本として刊行された際は月報・函が付属し、さらに初版本には検印が押されている、という非常に凝った装丁であったそうな。それを知って、「欲しいな」とちょっと思ってしまった俺であることだ。
12:37 | 書架 | Comment (0) | TrackBack (0)
Comment (0)
- TrackBack URL ...
- http://legalpenguin.sakura.ne.jp/weblog/blosxom.cgi/book/bookshelfdetective.trackback
コメントをお願いします